「しつけと虐待」の狭間で

乳幼児が虐待死するという痛ましい事件が後を絶たない。
児童虐待防止法は07年改正で、立ち入り調査の強化、
保護された子に対する親の面会や通信の制限を設けたが、
現実的に機能していないことがわかった。
奈良や埼玉の事件も氷山の一角なのだろうな。
親は決まって言う。「しつけのつもりだった」と。
想像力が足りなさ過ぎだ。
法をより強化しても、まずはこういう親の教育が必要だというのは、
あまりにも悲しすぎる。

先日こんなことがあった。

渋谷駅で電車を待っていたら、後ろのベンチから親子らしき会話が聞こえてきた。
内容は身近な例を使った算数の問題で、それ自体は微笑ましい光景・・・のはずだった。
しばらくすると、母親は突然、ヒステリックに子供を叱責しはじめた。
目にいっぱい涙を溜めながら懸命に答えようとする男の子。
ヒートアップするヒステリックな行為が精神的苦痛を与える虐待に見えた瞬間だった。
よく見ると子供は有名私立大の「幼稚部」と書いた制服を着ている。
母親は周囲の冷ややかな視線などお構いなし。
むしろ保証された我が子の高学歴を自慢げに周囲に知らしめている風にも聞こえ、
過剰な第一次受験戦争を勝ち抜いた誇らしげな母親の姿がそこにあった。
公共の場でこうだから、家庭内では日常茶飯事なのだろう。
果たしてこんなところで算数の問題に答えさせる必要があるのだろうか?　
それよりも公共の場で教えるべきことがあるんじゃないだろうか。
公共の場では大声で喚き散らさない、とか（苦笑）

人としての基本を形成する幼少期には、算数よりもっと大切なことがあるはずだ。
多様性を求められる時代に、それを飛び越えいくら知識を詰め込んだところで、
厳しい時代を生き抜くチカラが身につくとはとうてい思えないのだが。
レールに乗りっぱなしじゃダメだろう。生きていくうえでトラブルは付きもの。
いつまでも学歴や肩書きに拘るダサダサ人間になっちまうぞ。
いつか挫折するときもあろう。逃げ道を教えるのも親の努めじゃないのか。
ほんの2～3分のできごとだったが、そんなことを思いながら憂鬱な気分で電車に揺られていた。


親には未成年の子を育てるためのさまざまな権利と義務がある。
民法に定められている親権の「監護教育権」もそのひとつ。

第820条 （監護及び教育の権利義務）
「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」


わかりやすく言えば・・・
独立した社会人としての社会性を身に付けるために、子を肉体的に監督保護し（監護）、
また、精神的発達を図るための配慮をする（教育）。

つまり、如何なる理由があっても、肉体的、精神的に子の成長を妨げてはならないということ。
そういう意味では、渋谷駅でのヒステリックな教育ママも、
奈良や埼玉の虐待死させた親と同じ種族といえるのではないだろうか。

子は親を選べない・・・
「しつけと虐待」の狭間で子どもたちの悲鳴が聞こえてくる。